アニメ「蟲師」について語ります

あーるちゃんの雑記
アニメ「蟲師」

以前友達に勧められて見てみたのが最初。
全体的に流れる鬱屈さと、五感に訴えかけてくる物語の構成がなかなか好みで、一気に見てしまったアニメです。
一つ一つの話は独立しているものなので途中からでも楽しめます。「蟲」というモノに冒された人間を「蟲師」称する「ギンコ」という名の男が治していくというお話です。

いつだったか、ラジオで漢字の話をしていて、私たちが普段使っている「虫」という漢字は「竜」が簡略化したもので、本来群れを成している昆虫には「蟲」という字があてはまるという話をしていました。
なぜ「虹」という漢字に虫が使われているかというと、竜が水を飲むときの首のアーチが虹の姿に似ているからという。
白川静という漢字研究家は「漢字というものは象形文字であるが、本来は悪霊などから身を守るための呪いの儀式で使うために発展した」という斬新な説をとなえています。漢字の歴史は古く、古いがゆえにこれという確固とした説明が無く、そこには人の想像力がどれだけも盛り込める分野なのだと思わせてくれました。
1900年前、許慎(キョシン)という人が漢字についての説明書を書いてます。「説文解字」というそうです。日本で言うと縄文時代の頃の書物です。それだけとってみても中国の歴史がいかに古いものかがよくわかります。

とにかく、許慎(キョシン)さんはその「説文解字」という説明書で「名」という漢字をこう説明しました。
「夕方になると暗くなるので、人が口に出して呼びかけたもの。それが”名”である」と。白川さんは考古学の分野から、それに真っ向から反論しています。「名」に使われている「口」というものは、本当は人間の口を表しているものではないんだと、それは神様の言葉を入れる「箱」を表しているんだと。そうじゃないとなぜ「右」や「器」に「口」が使われているんだ、全然人間の口とは関係がないじゃないか、と。

「蟲」という漢字に「皿」を足した「蠱」という漢字がある。”コ”と読みますが、それは5月5日に100匹の毒虫を一つの壷に入れて、何日も置いておくと最後に一匹だけが生き残る。99匹の毒虫を食い殺した最強の毒虫
のことを「コ」と言うそうです。「ビコ」という呪いの技だそうですが、憎い人の家の庭にコを埋めると地中を這い回り、相手を殺してくれるそうです。
漢字白川説をラジオではもっとおもしろく取り上げていましたが、今日は「蟲師」について書いているので、このへんでw

「蟲師」に出てくる蟲は、人間に憑り付いて色んな悪さをします。
まぶたの裏に取り付いた蟲は人から光を奪い、耳に取り付いた蟲は人から音を奪います。鼻腔に取り付いた蟲は1日しか生きられず、毎日卵を産み落としながら寄生し続けます。

「阿」という蟲は耳に寄生するものですがただ人から音を奪うだけではなく、常に音の洪水を宿主に浴びせ続けます。耳を塞いでも内側から聞こえてくる音は消えません。それが永遠に続き、人を衰弱死に追い込む。「阿」に冒された少年の母親も同じ蟲によって死に追いやられました。雪深い山奥の小さな山村で、しんしんと降り積もる雪の中にいるととても静かだけど、決して無音ではない。
雪は全ての音を吸収するようにただ静かに降り積もっていきます。
実際は私たちは日常の様々な音に囲まれて生活している。
無意識的にそれをシャットダウンしてはいるけど、その雑多な音は無くなることはありません。映像を見ながら、こんな場所で雪の降り積もる音を聴いてみたいと思ったりしました。

次は特殊な花を嗅いだ時に鼻腔に取り付く蟲の話。花は毎日咲き、そして毎日枯れ落ちます。
その花を嗅いだ人間は「生き神」と呼ばれ、人間の言葉を理解できず、話すこともできず、夜になると老いて死に、朝になると元の姿に戻ります。
自分の一生が1日だと知っていたら、私たちはその一日で何を考え行動できるんだろう。と言ったようなことをこの物語では問いかけています。
生まれ落ちた時、まだ世の中の仕組みも言語も知らずだけど生きているという喜びと希望に満ち溢れている。
寄生された人間は蟲の一生を一緒に生きています。
だから、朝生まれ変わり、夜になって死んでいく。
ただ、その短い一生を生きるだけで精一杯で、何かを考えている余裕などありません。蟲に冒された人間は、一見周囲の目からは奇異に映りますが、それが本人にとって不幸なことかどうかなんて分かるはずもない。以前「象の一生、蟻の一生」みたいなタイトルの本が有名になりました。象も蟻も、その一生の長さは違うけれど、一生のうちに打つ心拍の数は同じだというものです。生物にとって、時間というものは感じ方の違いであって本当は同じ時間で構成されているのではないか。大人より体温も高く脈も速い子供の頃の1日はなんと長く感じられただろう。

蟲師の治療によって、普通の人としての生活を取り戻した少女はその目の前に広がる気が遠くなるような時間に恐怖を訴えます。
自分のこれからの人生に対しての膨大な時間に耐え切れなくなった少女は自ら花の花弁を嗅ぎ、再び「生き神」となってしまう。
たとえ人として生きれなくても、毎朝新しい自分へ生まれ変われるその喜びと実感は確かに生きている証であり、何事にも変えられないものだったのでしょう。

「蟲師」
もちろん荒唐無稽な作り話の世界ですが、学生時代に夢中になって読んだのファンタジー小説のドキドキ感を思い出させてくれるようなアニメでした。

R.d

HAKUNA Liveで22時から時々配信。 ID:7adcwk8ae96o33

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